企業分析ナレッジ

三越伊勢丹HD 財務分析指標が示す、社長退任劇の遠因は8年前にあった!!!

Facebook
X
Email
Print
目次

会社概要(株式会社三越伊勢丹ホールディングス)

今回は、株式会社三越伊勢丹ホールディングスを分析してみました。3月7日、業績不振や現場の疲弊を理由に、石塚邦雄会長が主導して社長交代を決定しました。2012年より三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長は、新宿伊勢丹メンズ館に発想段階からかかわるなど「改革者」と評価されてきました。3月13日、新経営体制の記者会見が開かれ、杉江俊彦次期社長は「事業の選択と集中を進める」と述べました。

三越伊勢丹ホールディングスの分析

2016年3月期までの10年間を、分析してみました。


https://sp-21.co.jp/column/wp-content/uploads/2017/04/三越伊勢丹企業分析001.png

今回のグラフはターニングポイントが明確です。企業力総合評価の悪化した2009年は、営業効率(儲かるか)、資本効率(資本利用度)、資産効率(資産利用度)、流動性(短期資金繰り)、安全性(長期資金繰り)とほぼ全ての親指標が悪化しています()。三越とのM&Aによって総資産が増加し財務体質が悪化(流動性・安全性)、資産利用度が下がり(資産効率)、急激に利益が減少し(営業効率・資本効率)、2016年までにそれが回復することはありませんでした。
唯一生産効率が右肩上がりの改善トレンドですが、この指標は従業員数と売上高もしくは利益の関係を示す評価で、人員削減によって改善させたことが確認できます(赤矢印)。17,082人→17,637人→30,735人(M&A直後)→28,622人→29,150人→26,935人→26,242人→25,710人→25,192人→25,415人(2016年)。

V字回復に必要な反発力を学ぶ(アデランス・スズキ)

三越伊勢丹ホールディングスの10年を俯瞰すれば、三越とのM&Aで企業力を悪化させ、それが7年たっても改善していないことが見て取れます。成長しようとして企業は様々な成長戦略を練ります。しかし、それが上手くいかないことも当然、発生するわけですが、そのような時は元に戻す瞬発力が試されます。瞬発力の強い場合はアデランス、スズキのように表現されます。

アデランス・スズキ企業分析

悪化原因を財務分析指標に探る(三越伊勢丹ホールディングス

それでは、三越伊勢丹ホールディングスの企業力がなぜ改善しないかを調べてみましょう。

三越伊勢丹営業効率下位指標

営業効率の各下位指標を示します。これらの指標が纏め上げられ営業効率の親指標となります。
売上高総利益率と販売費及び一般管理費率の縦軸は右側です。
M&Aにより売上高総利益率が急激悪化し、それを改善することなく、販売費及び一般管理費率を下げて調整している様が見て取れます。従業員数の減少を調べると、臨時雇用者数は変化ありませんが、正社員数が減少しているので、販売費及び一般管理費率の改善は正社員の人件費の減少効果もあるのでしょう。
儲けの重要な指標である売上高経常利益率はM&A前は4%超でしたが、その後戻っていません。
売上高経常利益率 > 売上高営業利益率であることから、受取利息・配当金、関連会社の利益などが多く、財務収益にカバーされていることが分かります。

1月のパナソニックのV字回復では、売上高総利益率は、企業成長の先行指標と確認しました。そして、今回の三越伊勢丹ホールディングスは、この先行指標を改善させることなく、販売費及び一般管理費率の調整と財務収益でカバーしたのが、企業力が上がらない原因の一つと言えます。

M&Aの失敗をM&Aで即座にカバーしたファルコホールディングスの分析

2010年にM&Aで買った示野薬局を2013年12月に売却し、利益率の高い臨床検査事業及び調剤薬局事業に集中するという、M&Aの失敗をM&Aで挽回したファルコホールディングスの事例を示します。

ファルコHD分析004

三越伊勢丹ホールディングス分析のまとめ

今回の退任劇では、銀座三越の8階、2016年1月に全面リモデルされた空港型免税店「Japan Duty Free GINZA」が上手くいかなかったなどいくつかの問題点が指摘されていますが、それはきっかけに過ぎず、問題の本質は8年前のM&Aの失敗に向き合わなかったことにあるのではないでしょうか。多変量解析企業力総合評価分析SPLENDID21は、財務データのみから悪化は何時か、何処かをいち早く伝え、リカバリーモデルを示します。

もっと知りたい(次をクリックしてください) 「M&Aによって総資産が増加し財務体質が悪化するとは

ちょうど三越をM&Aした時期にもSPLENDID21NEWSを発行しています。SPLENDID21NEWS第45号【2009年8月15日発行】
合わせてご覧下さい。M&AとリーマンショックをWで受けた三越伊勢丹ホールディングスと、リーマンショックのみの高島屋を比較して考察しています。

SPLENDID21NEWS第137号【2017年4月15日発行】をA3用紙でご覧になりたい方は下記をクリックしてください。
sp21news137三越伊勢丹HD.doc

Facebook
X
Email
Print
Picture of 山本純子
山本純子
株式会社SPLENDID21 代表取締役。企業評価・経営者評価のスペシャリスト。多変量解析企業力総合評価「SPLENDID21」というシステムにより、通常の財務分析ではできなかった経営全体を「見える化」するシステムを提供。 近年では様々な企業が本手法を利用して莫大なデータより有用な情報を引き出し、実際の経営に役立てています。 代表者プロフィールはこちら
Picture of 山本純子
山本純子
株式会社SPLENDID21 代表取締役。企業評価・経営者評価のスペシャリスト。多変量解析企業力総合評価「SPLENDID21」というシステムにより、通常の財務分析ではできなかった経営全体を「見える化」するシステムを提供。 近年では様々な企業が本手法を利用して莫大なデータより有用な情報を引き出し、実際の経営に役立てています。 代表者プロフィールはこちら
関連記事

東宝 ZOOM解説会のご案内 日時:2024年11月27日(水) 20時~ 料金:下記 申込期限:11月25日(月) 正午 実施方法:オンライン(ZOOM) お申込み方法:ページ下部のお申込みフォームからお申込みください […]

東宝株式会社は、日本を代表するエンターテインメント企業として、映画・演劇・映像制作などのトップ企業です。小林一三翁が1932年に設立され、最近では「ゴジラ」シリーズや「シン・ゴジラ」といった世界的に有名な作品を手がけ、多 […]

新着記事
カテゴリーで探す
目次